研究事業 モノグラフ11号


◆地域産業連関表の推計と分析 −山口県産業連関表を中心として− 中谷孝久著

はしがき

 本研究は徳山大学総合経済研究所の地域経済研究事業として助成を受けている.ここに記して謝意を表する.また,山口県における産業連関表の作成状況を調査する過程で,山口県企画部統計課から昭和年表の提供を受け30ることができ,山口県に関する産業連関表の整理に役だった.ここに記して意を表する.
 山口県における産業構造の特徴を実証的な観点から分析したものは相当数見られるが,産業内部の連関から見た特徴を分析したものは数少ない.本研究で,山口県における産業構造の特徴を産業連関分析を用いて示すことができれば,山口県経済の特徴をより深い観点から理解することに役立つ.
産業連関表は年代に誕生して,現在まで多くの産業連関表が作成さ1930年代に誕生して、現在まで多くの産業連関表が作成されており,産業連関表の経年変化を長期的に分析できる環境も整いつつある.
 地域産業連関表の推計を手がけているとき,分析対象となるデータとして山口県の産業連関表の作成状況も調査した.山口県では,昭和35年を対象とする産業連関表を初めとして,昭和40年,55年,60年,平成2年,7年を対象とする産業連関表が作成され報告書も出されているしかし昭和45年,昭和50年を対象年とする山口県産業連関表が作成されていることは確認できていない.他方で,昭和30年を対象年とした産業連関表(計数編のみ)が作成されていることが分かった.
 日本における産業連関表作成基準には変化があり,国あるいは広域を対象範囲とする産業連関表の分析でさえ,長期の時系列分析を行おうとすれば限られた範囲でしか分析できない.ましてや山口県における産業連関表は作成されていない年があり,昭和30年を対象年とする産業連関表があり,概念規定が国の基準に従っているとしても,概念規定などが対象年の間でコンシステントではなくて,統一的な視点から長期的に詳細に分析するには不十分である.
 今回の分析では,地域投入係数などの推計方法にも多くの問題を抱えており,産業連関データの整理も統一的基準で行うことができなかった.特に時系列比較を可能にするにはデフレータの推計は必須であり,その推計に当たり十分な検討時間がなかった.また,産業部門を限ったとしても,比較分析するに十分な根拠も見いだすことができなかった.また,移出・移入などの地域に関する個々の産業連関データについても性質上もさることながら『商品流動調査』まで遡ることは時間的・資源的余裕がなかった.
 また,産業連関データの地域経済との整合性については,県民経済計算との突き合わせは必須であり,これについても検討を許される環境にはなかった.
 これらの不十分さはあるものの,限られた資源の中で,山口県の産業構造の特徴を一部でも産業内の連関にまで遡って検討できたことは意義があると思われる.産業連関分析が確立されてから65年以上も経過し,創始者のLeontiefもこの世を去った. Leontiefに始まった産業あるいは経済活動の相互依存に基づく波及分析は長期分析に耐え得るような研究基盤の整備も必要とされている.

平成 16年 3月 1日
中谷 孝久