研究事業 モノグラフ11号


◆ベイジアン単位根検定の展開  河田 正樹 著

はじめに

 2003年のノーベル経済学賞はR.Engle,C.W.J.Granger両教授が受賞した。受賞の対象は、経済時系列分析に関するものであり、EngleがARCHモデル、Grangerが共和分(cointegration)についての研究であった。これらの研究は現在の計量経済分析、計量ファイナンス分析に広く用いられている。
 Grangerの受賞対象となった共和分とはどういうものであるかを簡単に説明してみよう。階差定常な2つの時系列がその線形結合をとることによって定常な系列をつくることができるとき、2つの時系列は共和分関係にあるという。また、共和分分析とは階差定常な複数の時系列間の回帰関係を分析するものといえる。
 ある時系列が階差定常な系列かどうかを検定するものが単位根検定である。共和分分析は単位根検定をおこなった結果「単位根がある」と判定された複数の系列についての分析であり、単位根検定は共和分分析の出発点となっているといえよう。
 単位根検定は1970年代後半にDickey-Fullerによって最初に考案され、数多くの実証研究に用いられている。しかし、この検定には検出力の低さなどの問題があり、現在でもさまざまな議論がなされている。なかでもSimsがベイジアンの立場からおこなったDickey-Fuller 流の単位根検定に対する痛烈な批判は大きな波紋を呼び、さまざまな研究者がベイジアン、ノンベイジアン(本書ではノンベイジアンのアプローチを伝統的アプローチとよぶことにする)それぞれの立場からこの問題についての検討をおこなった。
 単位根検定には、単位根を含むモデルを帰無仮説とする検定と定常なモデルを帰無仮説とする検定の2つの種類がある。本書は1章で単位根検定とは何かについて簡単に触れた上で、2章では単位根を含むモデルを帰無仮説とする検定について、3章では定常なモデルを帰無仮説とする検定について、それぞれ伝統的アプローチとベイジアンアプローチを紹介し、考察をおこなった。4章は最近考案されているこの2種類の検定を結合する試みについて触れている。これらは筆者が大学院博士後期課程在学中から執筆してきた論考に大幅な加筆修正を加え、体系だてて整理したものである。
 このように本書をまとめることができたのも、さまざまな方々のご指導、ご助力のおかげである。徳山大学総合経済研究所には平成14年度1号部門研究「単位根問題におけるベイジアンアプローチに関する研究」の研究助成を受け、このような機会をいただいた。印刷を担当してくださった中西印刷株式会社の方々には、数々の難しい注文に対応していただいた。心よりお礼を申し上げたい。また学部、大学院を通じて筆者を根気強く指導をしてくださった佐竹元一郎早稲田大学名誉教授にもこの場を借りてお礼申し上げたい。

2004年3月

河田 正樹