■作成者より (付)原著論文   徳山大学総合研究所:中国地域の地形環境
 

データベース作成の趣旨

  私たちを取り巻く自然環境は、地形や気候、水、動物、植物などさまざまなものからできあがっています。それらの一つひとつの構成要素はお互いに関連しあっており、それらの中のどれかが変化すると―それが自然的な変化でも、人為的な変化でも―その影響はほかの要素に波及し影響を及ぼします。変化の程度が大きければ大きいほど、大きな影響を与えます。ですから、自然環境や環境問題について考え、対策を立てようとするときには、どの構成要素についてもその調査・研究が欠かせないものになります。

 しかし、従来の日本での自然環境調査や環境保全と言った場合、動物や植物(生物)に関連した環境調査・保全が注目され、優先されてきたきらいがあります。それは、対象が生物であるために、「消滅か、保存か」と言った明白で分かりやすい命題であることが影響していると思います。

 これに対し、地表面を形づくる地形やそれらの基となる岩石や土壌などは、自然環境の要素の中では基盤となるものではあるのですが、人々が地上で生活していくためには、削ったり、ならしたりといった改変を加えなければいけませんし、また、動物や植物のような「消滅か、保存か」と言った劇的な状況が見られないこともあって、これまであまり注目されて来なかったと言えます。 
 しかし、動物や植物さらには人間の生活の舞台となるのが大地(地形や岩石など)ですから、その重要性は他の環境要素に劣りません。さらに、基礎的環境という点ではより重要なものと言ってよいでしょう。

 そこで、私たちは自然環境の要素の中で、基盤的な存在である地形に焦点を当て、野外調査や文献調査を行い、地域の自然環境の中で地形の果たす役割を正当に評価することとしました。調査対象地域としては、身近に調査できる中国地方の地形を取り上げました。

 中国地方の色々な地形の分布の様子やその形、大きさ、地形のでき方や特徴、そして自然環境としての重要性や稀少性、地形改変や破壊の現状などについて、調査・整理し、データベース化することとしました。データベース化することによって、自然環境の保全や破壊の進行を防ぐための基礎資料として、また、防災や地形環境に関する教育の場で利用しやすい資料となることを期待したからです。


データベース作成までの経緯

 このデータベースを作成するまでに、私たちは次のような調査・研究を行ってきました。

 最初に『日本の地形レッドデータブック』の作成委員および編集協力者として参加し、中国地方の地形について調査し、取りまとめをしました1)。その成果は、小泉武栄・青木賢人(2000)『日本の地形レッドデータブック−第1集―危機にある地形』として刊行されています。

 この本では日本の各地の地形を「破壊や保存状況」によって、A〜Dランクに分けて評価しています。取り上げられた地形については、その特徴などが記され、地形図や写真も掲載されていて地形の状況が把握しやすくなっています。この本はタイトルのとおり、開発による破壊から保護すべき地形をリストアップすることに主眼があったため、すでに破壊された地形や開発によって破壊のおそれがある(B〜Dランク)と評価された地形までは掲載されましたが、保存状態が良好(Aランク)と評価された地形については載っていません。中国地方5県では、鳥取県(4)、島根県(7)、岡山県(6)、広島県(5)、山口県(7)の合計29の地形がリストアップされていいます。

 次いで私たちは当初は建設省国土地理院の技術資料として作成され、後に一般書籍として刊行された『日本の典型地形 都道府県別一覧』の作成に参加し、中国地方5県の調査2)を担当しました。

 この本は、そのタイトルの通り、日本各地の典型的な地形について、その地形の名称や地形のタイプ、その所在地などについて、都道府県別にリストアップし、同時にその地形の位置や分布の範囲などを20万分の1地勢図上に表示することを目的としたものです。このため、取り上げた地形について文章での説明はなされていません。この本で私たちは、鳥取県(82)、島根県(134)、岡山県(97)、広島県(104)、山口県(128)の合計545の地形をリストアップしました。

 続いて私たちは、上の二つの調査・研究を下敷きにして、中国地方5県の重要な地形や典型的な地形のリストアップとそれら地形の分布や形、でき方などの特性把握や破壊・保全状況などの現状把握のための調査を開始しました。この研究は『地形環境の特性と保全 ―進行する環境破壊の中の地形環境』3)として、徳山大学総合経済研究所(現 徳山大学総合研究所)の研究助成を受けました。調査ではリストアップした地形の特性や現状を把握するために野外調査を重点的に行いました。研究の成果は、以下の4論文にまとめて報告しました。


原著論文

 ・大竹義則・林正久(2006)「中国地方の地形環境 1−鳥取県・島根県・岡山県−」徳山大学総合研究所紀要,vol.27・28,pp.19−74.

 ・大竹義則・林正久(2008)「中国地方の地形環境 2−山口県−」徳山大学総合研究所紀要,vol.30,pp.1−29.

 ・大竹義則・林正久(2009)「中国地方の地形環境 3−広島県−」徳山大学総合研究所紀要,vol.31,pp.11−37.

 ・大竹義則・林正久(2010)「中国地方の地形環境 4」徳山大学総合研究所紀要,vol.32,pp.27−56.


 このデータベースは上記のような経緯を経て作成された4論文を基に、野外調査での画像データを加え、ネットワークでの利用ができるように、ホームページ上に整理し、まとめたものです。また、上記4論文の間で不統一であった表記の仕方や評価内容などについても整理・統一し、必要な修正や訂正も加えています。



                        大竹義則(徳山大学経済学部)・林 正久(島根大学教育学部)


1)中国地方の地形については、作成委員:大竹義則、編集協力者:高橋達郎(岡山大学)、中田高(広島大学)、林正久、豊島吉則(鳥取大学)が担当した。
その成果は、小泉武栄・青木賢人(1994)『日本の地形レッドデータブック−第1集』日本の地形レッドデータブック作成委員会、226ps.として出版された。
後に、一部加除訂正が加えられて、小泉武栄・青木賢人(2000)『日本の地形レッドデータブック−第1集―危機にある地形』古今書院,210ps.が刊行された。

2)林正久・大竹義則の2名で中国地方5県分を分担・調査した。
建設省国土地理院(1999)『日本の典型地形 都道府県別一覧』財団法人日本地図センター、361ps.

3)平成10年度〜平成12年度、徳山大学総合経済研究所1号研究(A)『地形環境の特性と保全−進行する環境破壊の中の地形環境』(代表者:大竹義則、共同研究者:兼重宗和(徳山大学)、林正久)。